インターネットの理想と現実


Nov 21, 2025 情報技術者倫理
 
中京大学 工学部 情報工学科 教授
鈴木常彦

インターネット技術はおんぼろ仕様

インターネットは進化している?

インターネット技術は実装もおんぼろ

おんぼろでもやってこれた

時代は変わり

そして運用もおんぼろに

間違った理解、間違った設定、出鱈目な運用、間違った解説が氾濫

DNS の脆弱性の一角を紹介

Dangling Records (宙ぶらりんのレコード)

レンタルサーバを解約した後 A, CNAME, NS, MX などのレコードが残っていると危ない


A レコードを消さずにレンタルサーバを返した事例

m.chukyo-u.ac.jp

総務省の Dangling CNAME を発見 (2024/12/21 土曜)

特別定額給付金サイトだった kyufukin.soumu.go.jp の CNAME (別名に対する本名) が宙ぶらりんだった。

% dig kyufukin.soumu.go.jp

;; ->>HEADER<<- opcode: QUERY, status: NXDOMAIN, id: 15370

;; ANSWER SECTION:
kyufukin.soumu.go.jp.  600 IN CNAME kyufukin.sakura.ne.jp.

;; AUTHORITY SECTION:
sakura.ne.jp.  3600 IN SOA dns.sakura.ad.jp. noc.sakura.ad.jp. (
        2024121200 ; serial
        3600       ; refresh (1 hour)
        600        ; retry (10 minutes)
        3600000    ; expire (5 weeks 6 days 16 hours)
        3600       ; minimum (1 hour)
        )

;; WHEN: Sat Dec 21 01:03:31 JST 2024

kyufukin.soumu.go.jp を保護
(2024/12/21 土曜)

夜道で迷子を見つけたら保護しますよね! (誘拐ではない)


soumu cname

厚生労働省の Dangling CNAME を保護
(2024/12/23 月曜)

若者向け就職等に関する電話・メール相談事業のドメイン名 oshigoto.mhlw.go.jp の CNAME である ivoryturtle3.sakura.ne.jp を確保し保護

oshigoto.mhlw.go.jp. IN CNAME ivoryturtle3.sakura.ne.jp.

対応の催促として保護猫のコンテンツを設置

mhlw cat

その他多くの GO.JP, LG.JP 等を保護
(2024 年末 - 2025 年始)

報道

村上総務大臣閣議後記者会見の概要 (令和7年1月14日)

質疑応答
総務省の使用済みドメインの対策

問:
 総務省の使用済みドメインが、第三者に不正利用され得る状態にあったという報道がありました。総務省として、いつ覚知し、対策はいつ完了したのか。また、こういう状況に陥ったことについての大臣の受け止めをお願いいたします。

答:
  令和2年に総務省が運用していた、特別定額給付金に関する特設サイトについて、サイトの閉鎖後、そのドメイン、ご承知のように、ドメインとはインターネット上の住所ですが、不正利用され得る状態となっておりました。
  このことについて、昨年12月23日に外部からの情報提供により覚知しまして、翌日24日にはシステム上の対応を行い、対策を完了しました。
  なお、当該サイトが実際に不正利用されていたとの事実は把握しておりません。
  総務省では、自治体等に対し、ドメイン管理の注意喚起を行ってきた中で、このような事案が生じたことは誠に遺憾であります。
  今回の事案も踏まえ、サイトのドメイン管理を徹底して、再発防止に努めてまいりたいと考えております。

https://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/01koho01_02001408.html より

その後も多くの GO.JP, LG.JP 等を保護


Dangling CNAME record 4 件、Dangling NS records (lame delegation) 24 件

DNS 水責め攻撃

2023年春から DDoS 系のサイバー攻撃が頻発。手法は DNS 水責め攻撃

news1news2

DNS 水責め攻撃

私のハニーポット(オープンリゾルバ)の観測でも2023年3月中旬から攻撃が急増

attack graph attack ip

DNS 水責め攻撃

水責め攻撃 (Water Torture Attack)とは

大阪府が攻撃されていた時のログ

osaka log osaka graph

DNS 水責め攻撃

観測方法

踏み台の中に囮サーバを紛れ込ませて観測 (攻撃に加担しないようレートリミットや帯域制限)

honeypot fig

DNS 水責め攻撃

2023 3/15 - 5/31 の被害JPドメイン Top 30

  1. at.nttdocomo.co.jp. 23845
  2. pref.aichi.jp. 13758
  3. pref.okinawa.jp. 9883
  4. jil.go.jp. 9845
  5. pref.nara.jp. 9639
  6. pref.osaka.jp. 8882
  7. takashimaya.co.jp. 8704
  8. pmda.go.jp. 7528
  9. nies.go.jp. 6837
  10. enekoshop.jp. 6710
  11. hane-line.co.jp. 6656
  12. saisoncard.co.jp. 6642
  13. pref.toyama.jp. 6146
  14. android.jp. 4694
  15. v4.cyber.ipa.go.jp. 4513
  16. pref.kagoshima.jp. 3451
  17. boj.or.jp. 3408
  18. animate-onlineshop.jp. 3294
  19. yamaha.co.jp. 3222
  20. nta.co.jp. 2132
  21. csl.sony.co.jp. 1878
  22. post.japanpost.jp. 1645
  23. gaga.ne.jp. 1048
  24. umin.ac.jp. 904
  25. gov-online.go.jp. 761
  26. idc.nttdocomo.co.jp. 723
  27. city.osaka.lg.jp. 655
  28. ntt-east.co.jp. 630
  29. prtls.jp. 505
  30. montegrappa.jp. 453

技術のあり方を問う

Tools for Conviviality

「自由のユートピア」から「自由からの逃走」へ

理想(かつて)
現実(現在)
  • 自由より導かれ管理される幸せ (『カラマーゾフの兄弟』の大審問官)
  • ハイパージャイアンツ (GAFAM) 支配
  • テクノクラシーの台頭
『自由からの逃走』(E. フロム) :
人間は自由を求めながら、同時にその自由がもたらす孤独・不安・責任の重さに耐えられず、自由を放棄して権威や集団に逃げ込む
SNS :

自由に発信できる。でもいいねがなければ存在しない / アルゴリズム (あるいは AI) によるコントロール / 広告とアフィリエイト、マネタイズ


『カラマーゾフの兄弟』第5編第5節大審問官

「ああ、われわれがいなかったら、人間どもは決して、決して食にありつくことはできないだろう! 彼らが自由でありつづけるかぎり、いかなる科学もパンを与えることはできないだろう。」


「だが、最後には、彼らがわれわれの足もとに自由をさしだして、《いっそ奴隷にしてください、でも食べものは与えてください》と言うことだろう。」
"in the end they will lay their freedom at our feet and say to us, 'Make us your slaves, but feed us.' "

「そして彼らは大喜びでわれわれの決定を信ずるのだ。なぜなら、その決定こそ、個人の自由な決定という現在の恐ろしい苦しみや、たいへんな苦労から、彼らを解放してくれるからだ。そして、すべての人間が幸福になることだろう。」


インターネット崩壊論

まずは皆が現実を直視することから

技術観の再考


  • 「ユーザはバカ」
  • 「スケール=成功」
  • 「データは石油」

  • 「ユーザーは共同設計者」
  • 「小さくても自由」
  • 「データは信頼」
管理志向から共創志向へのパラダイムシフト。 Mastodon、Signal、IndieWeb は少数派だが、「小さくても自由」 を実践。誰のための技術か?

Internet IS for everyone

RFC3271

Internet IS for everyone
- but it won't be unless WE make it so.

2002, V.Cerf

イリイチに学ぼう

人々は物を手に入れる必要があるだけではない。暮らしを可能にしてくれる物を作り出す自由、それに自分の好みに従って形を与える自由、他人をかまったり世話をしたりするのにそれを用いる自由を必要とするのだ。

豊める国々の囚人はしばしば、彼らの家族よりも多くの品物やサービスが利用できるが、品物がどのように作られるかということに発言権を持たないし、その品物をどうするかということも決められない。彼らの刑罰は、私のいわゆるコンヴィヴィアリティを剥奪されていることに存する。彼らは単なる消費者の地位に降格されているのだ。

イヴァン・イリイチ「コンヴィヴィアリティのための道具」より